「あなたさまは他の方とは 違います。智泉院の お庭でお会いしたときから思うておりました。何と 目の澄んだ方。この世の何もかもを見通してしまう目をお持ちの方。このような方が男の意のままになるのはどれほど おつらいことかと。」
「いかがした?」
「つらいのです。こよいも 上様が あなたさまをお抱きになるのかと思うと。」
「私の初めての男は 父であった。父というても血のつながりのない 父じゃ。たまった欲を解き放つためただ それだけのために父は 私の体を抱いた。人を いとおしいと思い思われたことが一度でも あったならそれを つらいと感じたであろう。私は 悲しくもなくつらくもなかった。獣のように 雄とは何かを知っただけだった。なれど 今 そなたと知り合うて…。私は あのときの自分を哀れに思う。何という 哀れな悲しい娘であったのだろうと。」
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